一般超幾何関数が満たす微分方程式も超幾何微分方程式と呼びます。最も簡単な一般超幾何関数 $$F(x)=_{3}F_2\left(a,b,c;d,e;x\right)$$ の時、 $$x^2\,(1-x)\frac{d^3\,F(x)}{d\,x^2}+x\,((d+e+1)-(a+b+c+3)\,x)\,\frac{d^2\,F(x)}{d\,x^2}+(d\,e-(a+b+c+ab+bc+ca+1)\,z)\,\frac{d\,F(x)}{d\,x}-a\,b\,c\,F(x)=0$$ が成り立ちます。これを証明していきます。
証明の方針としてはガウスの超幾何関数の場合とほぼ同様です。$A_n=\frac{(a)_n\,(b)_n\,(c)_n}{(d)_n\,(e)_n}$として、 $$F(x)=\sum_{n=0}^{\infty}\frac{A_n\,x^n}{n!}$$ から$\frac{d}{dx}F(x), \frac{d^2}{dx^2}F(x), \frac{d^3}{dx^3}F(x)$の級数展開を、係数に$A_{n+1}$が現れる場合と$A_n$が現れる場合と2通り計算します。
次に上記の$A_n$の定義から自明に導かれる漸化式$A_{n+1}=\frac{(a+n)\,(b+n)\,(c+n)}{(d+n)\,(e+n)}\,A_n$から$(d+n)\,(e+n)\,A_{n+1}=(a+n)\,(b+n)\,(c+n)\,A_n$の両辺を展開して、さらに両辺の総和を取ります。その各項を先ほど求めた微分に置き換えていくことでこの微分方程式を求めます。
前の記事で紹介したガウスの超幾何関数の超幾何微分方程式を求める過程では上記最後のステップの微分に置き換えるところを、「じっと睨んで」適当な係数をかけることで置き換えがうまくようにしていました。今回はその部分も機械的な計算で求められることをMaximaで示します。これによって、より複雑な一般超幾何関数でも同じ手法で対応する超幾何微分方程式が求められることが分かります。
次のセルから定義や計算が始まりますが、しばらくはガウスの超幾何関数と同じ進行ですから、特に解説はありません。
out1stTerm(sumexp):=block([ar:args(sumexp),exp,varname,initvalue,finvalue],
[exp,varname,initvalue,finvalue]:ar,
subst(0,varname,exp)+apply(sum,[subst(varname+1,varname,exp),varname,initvalue,finvalue]));
F0:F(x)=sum(A[n]/n!*x^n,n,0,inf);
FD1_1:'diff(F(x),x)=diff(rhs(F0),x);
FD1_2:lhs(FD1_1)=ev(out1stTerm(rhs(FD1_1)),factorial_expand:true);
FD2_1:'diff(F(x),x,2)=diff(rhs(FD1_1),x);
FD2_2:lhs(FD2_1)=ev(out1stTerm(rhs(FD2_1)),factorial_expand:true);
FD3_1:'diff(F(x),x,3)=diff(rhs(FD2_1),x);
FD3_2:lhs(FD3_1)=ev(out1stTerm(rhs(FD3_1)),factorial_expand:true);
$A_n$の定義が${}_3 F_2$では異なるため、漸化式も以下のように少し変わります。
Acond:A[n+1]=(a+n)*(b+n)*(c+n)/((n+d)*(n+e))*A[n];
分母を払って両辺を展開します。
F4:expand(Acond*(n+d)*(n+e));
両辺に$\frac{x^n}{n!}$をかけてから$n$について総和を取ります。
F5:factor(sum(F4*x^n/n!,n,0,k));
この式の右辺や左辺を微分の線型結合で表すことができるか、という問題を考えます。$F(x)$の微分の無限級数の係数を見ると、$A_n$や$A_{n+1}$に$n$の下降階乗冪$n$, $n\,(n-1)$, $n\,(n-1)\,(n-2)$などが掛かった形をしています。これらは下降冪記号$(n)^-_k=n\,(n-1)\cdots (n-k+1)$を使うと$(n)^-_1, (n)^-_2, (n)^-_3$と書くことができます。実は一般にはこれらに$(n)^-_0=1$を加えた多項式集合$\{(n)^-_i | i=0,1,\dots,k \}$は$n$の$k$次多項式の基底を成すことが知られています。
例えば上記の式の左辺の$\frac{A_{n+1}\,x^n}{n!}$の係数は$n$の2次式なので、$\{(n)^-_i | i=0,1,2 \}$の要素の1次結合で書くことがきます。その時最高次数の係数は1で確定しますが、1次、0次の係数は未定なので$p, q$と置くと次の式が成り立ちます。
F6:n^2+(e+d)*n+d*e=(n-1)*n+p*n+q;
F7:F6,expand;
F8:lhs(F7)-rhs(F7)=0;
上の式が$n\ge 0$の任意の$n$について成り立つので、少なくとも$n=1, n=0$でも成り立つとして$p,q$を求めます。
SOL:solve([ev(F8,n=0),ev(F8,n=1)],[p,q]);
念のためですが、これらの$p,q$をF6式に代入すると右辺と左辺が等しくなるので、F6は恒等式であることがわかりました。これらの$p,q$を使ってF5式の左辺を微分で置換します。
F9:factor(expand(sumcontract(intosum(FD3_2*x^2+p*FD2_2*x+q*FD1_2)))),SOL;
F5式の右辺についても同様の計算を行います。F5式の右辺の$\frac{A_n\,x^n}{n!}$の係数が$n$の3次式であることからこの係数式は$\{(n)^-_i | i=0,1,2,3 \}$の要素の1次結合で書くことがきます。最高次の係数は1で決まりますが、2, 1, 0次の係数を$p, q, r$としてこれらを求めます。
F10:part(F5,2,1,1,1);
F11:F10=n*(n-1)*(n-2)+p*n*(n-1)+q*n+r;
F12:F11,expand;
F13:lhs(F12)-rhs(F12)=0;
SOL2:solve([ev(F13,n=0),ev(F13,n=1),ev(F13,n=-1)],[p,q,r]);
F14:factor(expand(sumcontract(intosum(FD3_1*x^3+p*FD2_1*x^2+q*FD1_1*x+r*F0)))),SOL2;
lhs(F14)-lhs(F9)=0,ratsimp;
求めたかった微分方程式が得られました。
より複雑な超幾何関数${}_pF_q$でも$Q(n)\,A_{n+1}=P(n)\,A_n$、ただし$P(n)$は$n$の$p$次多項式、$Q(n)$は$n$の$q$次多項式という関係がありますから、$P(n)$を$\{(n)^-_i | i=0,1,\dots,p \}$の要素の1次結合、$Q(n)$を$\{(n)^-_i | i=0,1,\dots,q \}$の要素の1次結合で書くことができて、それらを使って微分の1次結合を求めることができます。
なお下降階乗冪が多項式の基底になることはWikipediaの階乗冪の項目にも記載があり参考にしました。