定理:$_{2}F_1\left(a,b;a+b+\frac12;x\right)^2= {}_3F_2\left(2\,a,2\,b,a+b;2\,a+2\,b,a+b+\frac12;x\right)$
左辺はガウスの超幾何関数の2乗、右辺は一般超幾何関数です。
証明の方針ですが、超幾何関数の恒等式の証明でよくある、左辺と右辺が同じ微分方程式を満たし、かつ必要な初期値が一致する、というやり方です。まず定理の右辺を処理します。一般超幾何関数$G(x)={}_3F_2(2\,a,2\,b,a+b;2\,a+2\,b,a+b+\frac12;x)$が満たす微分方程式をもとに$F(x)^2=G(x)$となる$F(x)$が満たす微分方程式を求めます。といっても代入して整理するだけです。
次にガウスの超幾何関数$F(x)={}_{2}F_1(,b;a+b+\frac12;x)$が満たす微分方程式の適当な線型結合による新しい微分方程式を作ります。作り方から明らかに$F(x)$は新しい微分方程式も満たします。そしてこの新しい微分方程式が前の段落で求めた微分方程式と一致することを示します。といっても先に求めた微分方程式から後で求めた微分方程式を引き算して$0$になることを確認するだけです。
今回の証明はLorenz Millaという数学者の2021年の論文"A DETAILED PROOF OF THE CHUDNOVSKY FORMULA WITH MEANS OF BASIC COMPLEX ANALYSIS"のp24-29を参考にしました。
load("to_poly_solve_extra.lisp");
一般超幾何関数$G(x)={}_3F_2\left(a,b,c;d,e;x\right)$が満たす微分方程式は以前の記事で求めました。それが次の微分方程式です。
DF2:x^2*(x-1)*diff(G(x),x,3)
+x*(-(d+e+1)+(a+b+c+3)*x)*diff(G(x),x,2)
+(-d*e+(a+b+c+a*b+b*c+c*a+1)*x)*diff(G(x),x)
+a*b*c*G(x)=0;
${}_3F_2\left(2\,a,2\,b,a+b;2\,a+2\,b,a+b+\frac12;x\right)$の満たす微分方程式は$a,b,c,d,e$を$2\,a, 2\,b, a+b, 2\,a+2\,b, a+b+\frac12$に置き換えることで得られます。
DF21:subst_parallel([a=2*a,b=2*b,c=a+b,d=2*a+2*b,e=a+b+1/2],DF2);
自乗すると$G(x)$になる関数$F(x)$の満たす微分方程式は、DF21の$G(x)$に$F(x)^2$を代入して整理すれば得られます。これをDF22とします。ここまでで定理の右辺の処理は終わりです。
DF22:DF21,G(x):=F(x)^2,nouns,ratsimp;
次は定理の左辺の処理に取り掛かります。以前の記事でガウスの超幾何関数$F(x)={}_2F_1(a,b;c;x)$を満たす微分方程式を求めました。これをDF1とします。またDF1に$x$をかけたものをDF11とします。さらにDF11を$x$で微分したものをDF12とします。
DF1:(x^2-x)*diff(F(x),x,2)+((a+b+1)*x-c)*diff(F(x),x)+a*b*F(x)=0;
DF11:DF1*x,ratsimp;
DF12:diff(DF11,x),ratsimp;
次のステップが若干謎なのですが、上記のDF1, DF11, DF12を素材として$(2\,a+2\,b-1)\,2\,F(x)\,DF1 + 6\,\frac{d\,F(x)}{d\,x}\,DF11 + 2\,F(x)\,DF12$という微分方程式を構成してみます。ちなみにこのような作り方ですから元の$F(x)={}_{2}F_1(a,b;c;x)$がこの微分方程式を満たすことは明らかです。
DF13:(2*a+2*b-1)*2*F(x)*DF1+6*diff(F(x),x)*DF11+2*F(x)*DF12;
若干整理します。
DF14:ratsimp(DF13);
少し特別な$c=a+b+\frac12$の場合、$F(x)={}_{2}F_1(a,b;a+b+\frac12;x)$は次の微分方程式DF15を満たします。
DF15:DF14,c=a+b+1/2,ratsimp;
lhs(DF22)-lhs(DF15),expand;
なんと素晴らしいことにDF22の左辺とDF15の左辺は全く等しかったのです。すなわち$F(x)={}_{2}F_1(a,b;a+b+\frac12;x)$はDF22も満たすことがわかりました。これで$_{2}F_1\left(a,b;a+b+\frac12;x\right)^2$と${}_3F_2\left(2\,a,2\,b,a+b;2\,a+2\,b,a+b+\frac12;x\right)$は同じ微分方程式を満たすことがわかりました。
$F(x)=_{2}F_1\left(a,b;a+b+\frac12;x\right)$と$G(x)={}_3F_2\left(2\,a,2\,b,a+b;2\,a+2\,b,a+b+\frac12;x\right)$で$F(x)^2$と$G(x)$の初期値が十分に一致すること、つまり$F(0)^2=G(0), F'(0)^2=G'(0), F''(0)^2=G''(0), F'''(0)^2=G'''(0)$を示すことは次回にしましょう。